動画のRAW収録は必要なのか?僕が「いらない」と考える理由
動画撮影について調べていると、「RAW収録に対応しているか」「何bitで撮れるか」「カラーグレーディングの耐性は高いか」といった話がたくさん出てきます。
映像制作を仕事にするなら、RAWで撮影できるカメラを用意しなければならない。そんな印象を持っている人もいるかもしれません。
先に個人的な結論を書きます。
僕は多くの動画クリエイターにRAW収録は必要ないと思っています。
RAWが悪いという話ではありません。RAWでなければ成立しない撮影もあります。ただ、一般的な企業動画、店舗紹介、イベント、採用動画、SNS動画などを制作するうえで、本当に優先するべきものなのか。一度冷静に考えた方がいいと思います。
RAW収録とは
RAW収録とは、カメラのセンサーが受け取った光の情報を、カメラ内部で大きく加工せずに保存する記録方式です。
通常の動画よりも多くの情報を残せるため、撮影後に露出、ホワイトバランス、色などを細かく調整できます。キヤノンも、RAW動画について「感度やガンマカーブ、ホワイトバランスが固定されず、後処理で自由に調整できる」と説明しています。citeturn959661search15
Premiere Proでも、対応するRAW素材であれば、編集前の段階で露出や色温度、ガンマなどを調整できます。
簡単に言えば、撮影後の調整幅を広く残せる記録方法です。
RAW収録のメリット
RAW収録の大きなメリットは、カラーグレーディングの自由度と編集耐性です。
明るい部分と暗い部分の情報を多く残しやすく、撮影後に色を追い込んだり、露出やホワイトバランスを調整したりできます。機種や形式にもよりますが、12bitで記録できるRAW動画もあり、通常の圧縮動画より豊富な階調を扱える場合があります。
映画、CM、ミュージックビデオなど、色や質感を徹底的に作り込みたい仕事では大きな武器になります。撮影時に完璧に決め切れなかった部分を、編集で調整しやすいのも利点です。
ただし、データ容量は大きくなり、保存用ストレージや高性能な編集環境も必要になります。素材の管理、バックアップ、現像、書き出しにも時間がかかるため、撮影後の負担まで考えなければなりません。
個人的な結論として、多くの人には必要ない
ここからは完全に僕の個人的な意見です。
RAW収録は多くの動画クリエイターには必要ありません。
なぜなら、RAWで撮影したこと自体にお金を払ってくれるクライアントは、ほとんどいないからです。
RAWで撮った映像と、通常の収録形式で丁寧に撮影した映像。その違いを、完成した動画だけで正確に判断できる人がどれだけいるでしょうか。
動画制作を仕事にしている人同士で見ても、完成映像から収録形式まで当てるのは簡単ではありません。一般の視聴者やクライアントであれば、なおさらです。
もちろん、並べて細部を比較すれば違いが出ることはあります。しかし、クライアントが求めているのは「RAWで撮影された動画」ではなく、その映像を使った先に得られる結果です。
店舗に人が来る。会社の魅力が伝わる。採用への応募が増える。商品を欲しいと思ってもらう。
RAW収録はその目的を達成するための選択肢の一つにすぎません。
なぜRAWより集客力や営業力を優先するのか
RAW収録やカラーグレーディングを研究すること自体は、クリエイターとして面白いと思います。僕も映像を作る側なので、機材や技術を追いかけたくなる気持ちはよく分かります。
ただ、仕事として考えたときに、それが最も合理的な時間の使い方なのかは別の話です。
カラーグレーディングの微妙な塩梅を何時間も研究するより、自分の仕事を知ってもらう方法を考える。見込み客と接点を作る。提案力を磨く。クライアントが抱えている問題を聞き出す。
こちらの方が、仕事を増やすという目的には直接つながります。
RAW収録の知識があっても、仕事を獲得できなければ売上にはなりません。一方で、撮影機材が特別ではなくても、自分の価値を伝えられる人には仕事が集まります。
これはクリエイティブの良し悪しではなく合理性の話です。
エントリー機でも仕事が絶えないクリエイター
滋賀県で活動している、ある動画クリエイターの話です。
その人はキヤノンのEOS Kissで撮影しています。いわゆるエントリークラスのカメラです。もちろんEOS Kissも良いカメラですが、機材を重視する一部の動画クリエイターから見ると、「仕事でKissを使うのか」と思われるかもしれません。
RAW収録どころか、Log収録や本格的なカラーグレーディングもしていません。
それでも仕事は絶えません。
その人は、機材の性能で勝負していないからです。
実際に作った映像によって、クライアントにどのような価値を提供できるのか。その映像を使った先に何が起こるのか。話しているのは、いつも完成後のことです。
クライアントからすれば、カメラの型番よりも、自分たちにどのような結果をもたらしてくれる人なのかの方が重要です。
機材のランクと、クリエイターとしての仕事量は必ずしも比例しません。この実例を見るたびに、仕事で勝負する場所を間違えてはいけないと感じます。
RAW収録によって、どんな価値を提供できるのか
RAW収録を導入する前に、一度考えてみてください。
RAWで撮影したことで、クライアントの集客につながるのでしょうか。企業のブランディングが向上するのでしょうか。求人への応募が増えるのでしょうか。
僕には、RAWで撮影しただけでこれらを実現できるとは説明できません。
「色の調整幅が広がります」「階調が豊かになります」という説明はできます。しかし、それによってクライアントが納得する価値を、具体的に提案できるかどうかは別です。
仮にRAW収録によって映像の質が上がるとしても、その目的を達成する方法は本当にRAWしかないのでしょうか。
撮影場所、照明、構成、出演者の表情、伝える内容、編集のテンポ、公開後の運用。もっと直接的に成果へ影響する部分はたくさんあります。
RAWでなければ作れない映像なのか。それとも、RAWという言葉に引っ張られているだけなのか。
ここは分けて考えた方がいいと思います。
改めて、僕の個人的な結論
映画やCMなど、大規模なカラーグレーディングを前提にした制作ではRAW収録が必要になることがあります。撮影後の調整幅を最大限に残したい現場でも、RAWは有効です。
しかし、一般的な企業動画や店舗紹介、イベント撮影、SNS動画を中心に活動するのであれば、優先順位は高くないと考えています。
RAW対応カメラや大容量ストレージにお金を使う前に、集客、営業、ヒアリング、企画、提案を学ぶ。その方が、仕事を得て継続するという点では実利が高いです。
必要な撮影で使うのはいい。ただし、「動画クリエイターならRAWで撮るべき」という空気に流されて導入する必要はありません。
まとめ
RAW収録には撮影後の調整幅が広く、カラーグレーディングに強いという明確なメリットがあります。映像表現を徹底的に追求する制作では、非常に有効な記録方式です。
一方で、RAW収録を導入しただけで仕事が増えるわけではなく、クライアントの目的が達成されるわけでもありません。
動画クリエイターとして仕事を続けるために必要なのは、最高性能の収録方式を使うことではなく、作った映像によって何を提供できるのかを伝えることです。
RAW収録によって、顧客が納得する価値を提案できますか。
その価値は、ほかの方法では提供できませんか。
もっと直接的に、クライアントの目的へ近づける方法はありませんか。
僕の答えは、「多くの仕事ではRAW収録より先にやるべきことがある」です。


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